環境にやさしく、エネルギー効率が高い水処理技術「嫌気性処理法」について解説しているページです。水処理の仕組みや、よく比較される好気性処理法との違いが分かります。嫌気性処理法のメリットやデメリット、事例も紹介しているので参考にしてみてください。
嫌気性処理法とは、酸素がない環境(嫌気条件下)で生息・活動する微生物(嫌気性微生物)の働きを利用して、水の中の汚れ(有機物)を分解・処理する方法のこと。分解された有機物は、メタンガスや二酸化炭素に変換されます。
特に、高濃度の有機性排水の処理に適しており、エネルギーコストの削減やエネルギーを再利用する観点から注目されている排水処理方法です。
嫌気性処理法では、5つの段階を経て有機性排水を処理します。
嫌気性処理法と好気性処理法の違いは、主に次の3点です。
どの処理方法を選ぶかは、処理水の特性や設備の条件によって異なります。
ばっ気装置を使用しないため、エネルギー消費量を大幅に抑えられます。電気代を気にせず、有機物濃度が高い排水(食品工場、アルコール製造工場、紙製造工場などの排水)を処理できるのがメリットです。
処理過程で生成されるメタンガスを回収すれば、発電や熱供給のエネルギー源としても活用できます。
ばっ気装置を使用する好気性処理法の場合、微生物の増殖が活発になるため、余剰汚泥(増えすぎた微生物の塊)の発生量も増えます。余剰汚泥は水分が多く、そのまま処理・廃棄するのが難しいため、脱水や焼却などの処理が必要です。
その点、嫌気性処理法は微生物の増殖が遅く、余剰汚泥の発生量も少ないのが特徴。余剰汚泥を回収する手間や処分コストを抑えられるメリットがあります。
嫌気性微生物は温度に敏感です。中温嫌気性菌を利用する場合は30〜35℃、高温嫌気性菌を利用する場合は50〜60℃に保つ必要があります。低温環境では活性が低下し、処理能力が落ちて排水基準を下回る可能性もあるので注意が必要です。
温度管理が難しいほか、加温設備のエネルギーコストが発生するデメリットもあります。
嫌気性微生物が有機物をメタンガスと二酸化炭素に分解する過程で、硫化水素などの臭気成分が発生することがあります。例えば排水に硫酸塩(SO4)が含まれている場合、還元反応で硫化水素(H2S)になり、強烈な悪臭が発生。
従業員や近隣住民のクレームに発展する可能性があるため、水槽に覆いを設ける、脱臭機を利用するなどの対策が必要です。
インドネシアの天然ゴム製造工場の排水処理では、ばっ気処理が必要な「活性汚泥法」を採用しており、エネルギーコストが肥大化していました。
課題を解決するために導入されたのが担体型嫌気性処理「バイオセーバーTK」です。低濃度有機排水(CODcr濃度が500~5,000mg/L)から効率的にメタンガス(CH₄)を回収し、そのメタンガスを燃料として電力を生成するのが特徴。導入後は従来のばっ気処理にかかっていたエネルギーコストを削減することに成功しました。
成果として、年間で約3,325トンのCO₂排出削減が見込まれています(※排水処理にかかる軽油消費削減量(約1,054kL)と、バイオガス利用発電による軽油消費削減量(約184kL)を合わせたもので、軽油のCO₂排出係数(2.68tCO₂/kL)を用いて算出)。
参照元:JCM The Joint Crediting Mechanism(https://gec.jp/jcm/jp_old/projects/13fs_ina_01.html)
オハイオ州メディナ郡にあるケネス・W・ホッツ水資源再生施設は、湿式酸化方式による汚泥処理を実施していた施設です。施設を稼働するには大量のガスと電力が必要なため、持続的にエネルギーを回収・再利用できる仕組みを構築する必要がありました。
この問題を解決するため、嫌気性消化システムの導入を決定。消化槽のVFA、アルカリ度、pHをリアルタイムでモニタリングする設備も併せて導入しました。その結果、汚泥処理工程で発生したバイオガスを回収し、エネルギーとして再利用することに成功しています。
参照元:ハックジャパン(https://hach.jp/blog/1536/)
嫌気性処理法の種類はひとつではありません。世界各国で様々な嫌気性処理法が開発・実用化されています。ここでは、嫌気性処理法の種類別に、処理の仕組みと実用化の背景を紹介しているので、参考にしてみてください。
嫌気性微生物を1~3mm径程度に固形化してリアクター内に充填しているのが特徴。排水をリアクター(反応槽)の底部から上向きに流し、固形化した嫌気性微生物の層を通って有機物が分解されるシンプルな仕組みです。処理水はリアクター上部から排出されます。
UASB方式は、1970年代にオランダのDr.Lettingaらを中心とした官学民一体の共同研究体制によって実用化されました。実用化以降は欧米諸国を中心に適用され、稼動プラント数は1,000基を超えています(2001年時点)。
UASB方式は、嫌気性処理技術の中でも処理速度が速く、BOD(生物化学的酸素要求量)の80〜85%を除去できるのが特徴。余剰汚泥の発生を大幅に削減できるほか、処理過程で発生するメタンガスも回収できます。
高濃度有機排水の処理に適しているため、食品・飲料・製紙・化学などの幅広い産業で適用可能。特に古紙パルプ分野で普及が進んでおり、約50プラントの稼働実績があります(2001年時点)。
参照元:J-STAGE【PDF】(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/55/4/55_4_446/_pdf)
ICリアクター方式は、UASB方式の改良型。UASB方式と比較して2倍の有機物を処理できます。
リアクター(反応槽)の底部の仕組みはUASB方式と同様です。大きな違いは、バイオガスの上昇力を利用した内部循環機構を備えている点。ポンプなどの外部動力を使用せず、排水を循環して効率的に分解します。
リアクター内は第一段発酵槽と二段発酵槽に分かれており、第一段発酵槽では微生物がメタン発酵を行って大部分の有機物を処理。メタンガスの上昇圧力を利用して排水を第二段発酵槽へと押し上げ、さらに有機物を分解する仕組みです。高さのある二層構造なので省スペース化を図れます。
アメリカでは、1998年にクラスタールール(環境規制)が制定されました。その中では、クラフトパルプ(KP)工場の排水に含まれる「メタノール」による大気汚染が禁止されています。当時は「スチームストリッピング法」という在来技術で、排水のメタノールを蒸発させて取り出し、その後燃やして処理する手法が一般的でしたが、設備費用や維持管理費用が高いのが課題でした。
この課題を解決するために利用されたのがICリアクター方式です。特別な微生物を使って水の中のメタノールを分解し、その過程でメタンガスを作ります。このメタンガスは燃料として再利用できるため、エネルギーコストを節約できるのです。
アメリカのBoise Cascade社(ボイシ・カスケード社)は、ICリアクター方式を取り入れてJackson工場を建設。1年間の実験を行い、効果を徹底的に確認したうえで、1999年に工場を稼働させました。
参照元:J-STAGE【PDF】(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/55/4/55_4_446/_pdf)
このサイトでは、生物処理が向いている「発酵醸造」「サービスインフラ」「一次・二次産業」それぞれにおすすめの生物処理と水処理企業を紹介しています。嫌気処理法を含み、特徴や事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
業界ごとに異なる排水処理ニーズに対応するには、専門性の高い水処理技術をもつ企業の選定が鍵となります。
それぞれの業界特有の課題を解決した事例を持つパートナーと連携し、法規制の遵守や運用コストの最適化を目指しましょう。
導入実績
など
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