工場や事業所で排出される汚水を工場排水といいます。この工場排水の処理には様々な問題が発生し、過去には公害被害や環境汚染が幾度も引き起こされました。現代では法の整備により規制が強化され、改善傾向にある排水処理問題ですが、産業の発展に伴い新たな課題も浮上しています。
工場や事業所では製造や洗浄などを行う過程で、時に有害物質を含んだ汚水が大量に排出されます。これを工場排水と呼び、各事業所で適切に処理された後、公共用水域や下水に流されます。
工場排水は時に川や海、土壌などの環境汚染に起因したり、農漁業に悪影響を及ぼし、公害の原因になることもあります。よって工場排水内の有害物質の含有量などには、水質汚濁防止法で厳密に制限が定められており、地域によっては追加でさらに厳しい基準が設けられています。
産業の発展に伴い、工場排水が原因となる公害問題は歴史的に発生しています。日本で初めての公害事件となる明治時代の足尾鉱山鉱毒事件では、渡良瀬川に鉱毒が流れました。また河川などの公共用水域に工場排水が流れたことにより、水俣病やイタイイタイ病といった公害が発生しています。
いずれも有害物質を含んだ汚水に対する認知不足と法整備の遅れが招いた事件です。その後、旧水質二法を経て1970年に水質汚濁防止法が全国一律で定められたことで、工場排水の規制は全面的に強化され、今日に至ります。
現代において新たに浮上した排水処理問題もいくつか存在します。まず化学薬品や化学物質による工場排水の増加です。半導体工場の排水に含まれるフッ化水素酸や、ダイオキシン類、内分泌攪乱化学物質などが挙げられます。これらの工場排水の増加に伴い、排水処理設備のアップデートが求められています。
また、排水処理設備の強化に関しては、地方にこれらの半導体工場などが相次いで建設されていることによる地方の工業化に対応するためにも、排水処理の強化が必要です。そして、2011年に起きた福島第一原子力発電所事故による汚染水問題についても、未解決の重大な課題となっています。
1970年に水質汚濁防止法が交付されてから、工場や事業所の排水処理の対策は進んでいますが、東京湾などの閉鎖性海域や湖沼の環境水準は横ばいです。そのため、富栄養化による赤潮によって漁業への被害も発生しています。
富栄養化とは、工場や事業所などから閉鎖性海域や湖沼に栄養塩が流入することによって、植物性プランクトンや藻類が大量に増殖して、水質が悪化することです。近年では、工場や事業所からの産業用排水は減少傾向にありますが、生活排水による汚濁の影響が存在しています。
そのため、産業用排水の処理設備の技術の向上と生活排水による汚濁の予防を行うことが大切です。
工場排水処理設備も時代とともに進化することが求められます。例えば、汚濁物を適切に除去できること、質の高い再生水が利用できること、沈殿池などが不要になることがあげられます。
近年、膜分離活性汚泥法などの革新的技術によって、汚濁物の適切な除去が可能に。また、用途に合った膜を選べるため、再生水の質も上がりました。加えて沈殿池のスペースが空けば、施設の規模も縮小できます。
工場の排水処理設備も時代とともに進化し、更なる機能の向上によって工場排水の浄化と再利用を進めることが必要です。
地方への事業所や工場の移転による地域環境の汚染や汚濁が高度成長期以降にみられましたが、時代とともに経済も変化するため、事業所や工場も移転します。そのため、新しい環境の汚染や汚濁も発生します。
そのため、新しい工場や事業所が設置される場合などに、質の高い排水処理施設や設備を設けることが必要です。できる限り、周辺環境に環境に影響を与えない排水処理の方法を確立することは時代を終えて求められています。
食品工場や飲食店、また一般家庭では、動植物性油を頻繁に使用しており、油を含む排水が排出されています。そのため排水処理設備の機能低下や下水道管の閉塞が起こっているほか、悪臭や生態系への悪影響といった環境問題も抱えています。
油含有排水における規制自体はあるものの、規制対象の事業場は少なく、対象外となる日排水量50m3未満の事業場が全体約86.3%を占めています。つまり規制が上手く機能しておらず、油含有排水における問題は深刻になっているということです。
また、多くの自治体では下水道の使用方法や維持管理についての指導を行っていますが、十分とはいえません。そのため技術的な指導や制度の見直し等が求められているのが現状です。
埼玉県における平成27年度の異常水質事故では、54.8%が鉱物油を含む油分の公共用水域への流出が原因でした。また、そのうちの約21%にあたる25件は工場・事業場からの排水によるものです。
実際に事業場や一般家庭からの油含有排水が異常水質事故を起こした事例もあります。
平成12年、お台場海浜公園にオイルボールが漂着しました。オイルボールの主成分は動植物に含まれる脂肪酸。つまりこのオイルボールは事業場や一般家庭から排出された油が原因であり、下水道管などに付着・堆積することでボール状になったものと考えられています。
ノルマルヘキサン抽出物質は水中の油分量を示す指標として使用されており、水質汚濁防止法や下水道法では排水の基準値としてノルマルヘキサン抽出物質を用いています。
ノルマルヘキサン抽出物質は鉱油類や動植物油脂類などの不揮発性油分が主な対象ですが、抽出時には界面活性剤や脂肪酸類、農薬等も含まれます。そのため抽出された油分量のうち、温度80℃付近で揮散しない不揮発性油分をノルマルヘキサン抽出物質として定量しています。
水質汚濁防止法や下水道法において、ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準は以下のように定められています。
明確な定義はされていないものの、一般的に動植物などから得られる食用油は動植物油脂類、石油などから得られる潤滑油は鉱油類として分類されます。なお、事業場の種類や取り扱う油の種類によってどちらの基準が適用されるかが異なります。
排水処理施設に油含有排水が流入した場合、排水処理に影響を与えるリスクがあります。
排水処理の一次処理では、スクリーン設備の閉塞やフロートスイッチの誤作動を引き起こす可能性が高くなります。また二次処理では、スカムの発生や油膜の形成による悪臭発生や処理水質の悪化を招きやすくなります。
そのため、油含有排水による排水処理トラブルを防ぎ、安定的な排水処理を実現することが重要。排水処理施設に油分を流入させないよう、排水油を除去しておく必要があります。
浮上油回収装置は、切削油や洗浄液に混入した作動油や潤滑油を回収できます。そのため工場のクーラントタンクや排水槽に浮上油回収装置を導入し、油分を除去してしまうのがおすすめ。事業場で油分を除去しておくことで、排水処理設備の負担を大きく減らすことができるでしょう。
さらに排水処理設備の負担やトラブルのリスクを低減できれば、安定的な排水処理の実現が可能になります。また、悪臭や生態系への悪影響といった環境問題の改善にもつながるでしょう。
工場からの排水で、河川や海洋などが汚染されないように、国は排出基準を定めています。排水基準は、排水に含まれる物質の種類とその許容量の基準から構成されています。
工場の排水には、多くの種類の有害物質が含まれているため、排出基準をみたすように排水処理を行うことが法令順守の観点からも求められています。
排出基準となる物質 | 基準量 |
---|---|
(1)カドミウム及びその化合物 | カドミウムとして0.03 |
(2)シアン化合物 | シアンとして1 |
(3)有機リン化合物 | 1 |
(4)鉛及びその化合物 | 鉛として0.1 |
(5)六価クロム化合物 | 六価クロムとして0.5 |
(6)ヒ素およびその化合物 | ヒ素として0.1 |
(7)水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物 | 水銀として0.005 |
(8)アルキル水銀化合物 | 検出されないこと |
(9)ポリ塩化ビフェニル | 0.003 |
(10)トリクロロエチレン | 0.1 |
(11)テトラクロロエチレン | 0.1 |
(12)ジクロロメタン | 0.2 |
(13)四塩化炭素 | 0.02 |
(14)1,2-ジクロロエタン | 0.04 |
(15)1,1-ジクロロエチレン | 1 |
(16)1,2-ジクロロエチレン | ― |
(17)シス-1,2-ジクロロエチレン | 0.4 |
(18)1,1,1-トリクロロエタン | 3 |
(19)1,1,2-トリクロロエタン | 0.06 |
(20)1,3-ジクロロプロペン | 0.02 |
(21)チウラム | 0.06 |
(22)シマジン | 0.03 |
(23)チオベンカルプ | 0.2 |
(24)ベンゼン | 0.1 |
(25)セレン及びその化合物 | セレンとして0.1 |
(26)ほう素及びその化合物 | 海域以外10、海域230 |
(27)ふっ素及びその化合物 | 海域以外8、海域15 |
(28)アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物 | アンモニア性窒素×0.4+亜硝酸性窒素+硝酸性窒素として100 |
一部の有害物質や指定物質には、適用可能な処理技術が定まっています。処理技術は、その有害物質や指定物質の性質を考慮して決まります。ここでは、いくつかの物質と処理技術の例を見ていきましょう。
1,1-ジクロロエチレンに適用可能な処理技術は、大気中に揮散させる揮散法、活性炭に吸着させる活性炭吸着法、燃焼によって分解する酸化分解法、嫌気性と好気性の性質を利用して微生物の力で分解する生物分解法があります。
1,2-ジクロロエチレンに適用可能な処理技術は、揮散法、活性炭吸着法、生物分解があります。
ほう素に適用可能な処理技術は、凝集沈殿法、凝集沈殿法、吸着法、逆浸透膜(RO)法、ゲル化法、水熱鉱化法、水耕栽培法があります。
ふっ素に適用可能な処理技術は、凝集沈殿法、晶析法、吸着法があります。
1,4-ジオキサンに適用可能な処理技術は、オゾン処理、活性炭吸着、生物活性炭、活性汚泥、膜処理、ろ過、浮上分離、凝集沈殿処理、酸化、吸着があります。
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