医薬品工場では、製造工程や設備洗浄などによって性状の異なる排水が発生します。適切に処理を進めるには、排水の特徴や法規制を踏まえ、工場ごとの水質・水量に合った処理方式を選定することが重要です。本記事では、主な処理方法や設備選定のポイント、実際の導入事例について解説します。
医薬品工場の排水は、合成・抽出・製剤などの製造工程や、使用する原料、設備の洗浄方法によって性状が大きく変化します。工程によっては高濃度の有機物や酸・アルカリ、難分解性物質が含まれるため、成分濃度や生分解性を正しく把握したうえで処理方式を検討することが基本です。
原料処理や化学合成、製剤などの工程では、原料や製造残留物、有機溶剤、酸・アルカリなどの成分が排水へ移行します。また、設備やタンクのCIP洗浄(定置洗浄)では、製造残留物とともに高濃度の有機汚濁や洗浄用界面活性剤、殺菌剤が混入するのが特徴です。
そのため、事前の水質分析で成分を特定し、BOD/CODcr比の測定などから生分解性を正確に評価することが、適切な処理方式を選定するうえで有効な手順となります。
医薬品製造で多く採用されるバッチ生産(回分生産)や設備洗浄のタイミングにより、排水量や汚濁負荷が一時的に急増するピーク負荷が発生します。
平均排水量だけで設備を設計すると処理能力を超えるおそれがあるため、工程ごとの排出パターンや変動幅を想定し、水質・水量を均一化する調整槽の容量や処理能力を検討することが欠かせません。
医薬品工場の排水管理では、水質汚濁防止法や下水道法などの環境法令の遵守が求められます。適用される規制値や届出義務は、設置施設や排水先(公共用水域か下水道か)によって明確に区別されます。自治体の条例で国の基準より厳しい「上乗せ基準」が設定されているケースも多いため、個別の確認が必要です。
水質汚濁防止法施行令では、医薬品製造業の特定施設として動物原料処理施設、ろ過施設、分離施設、法令で定める物質を含むものを混合する施設、廃ガス洗浄施設などが定められています。
特定施設を設置して公共用水域へ排水する事業場(特定事業場)には、同法に基づく排水基準の遵守が義務付けられます。設備の新設・改修にあたっては対象施設への該当性を精査する必要があり、新設・変更時には原則60日前までの届出が必要です。
※参照元:e-Gov法令検索「水質汚濁防止法施行令」https://laws.e-gov.go.jp/law/346CO0000000188
※参照元:e-Gov法令検索「水質汚濁防止法」https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000138
公共下水道へ排水する場合は、水質汚濁防止法とは別に下水道法に基づく排除基準や、自治体の条例で定められた基準が適用されます。
下水道処理場の機能を害する恐れのある排水(酸・アルカリや高濃度BODなど)を流すことは禁じられており、基準を超える場合は事業者側で除害施設(事前処理設備)を設置して処理しなければなりません。適用基準や届出手続きについては、設備設計に着手する前に管轄の下水道管理者へ相談することが推奨されます。
※参照元:e-Gov法令検索「下水道法」https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000079
医薬品工場の水処理では、排水を系統ごとに分別して前処理を行い、負荷を均一化したうえで生物処理を行うのが基本です。さらに、高い放流水質や省スペース化が求められる場合は膜処理(MBR等)を組み合わせます。
酸・アルカリ排水には自動中和装置を配置して適正pHに調整し、高濃度排水や洗浄排水は系統ごとに分別(分離)集水して事前処理を行うのが原則です。
また、バッチ生産や大量洗浄による一時的な変動を抑えるため、十分な容量の調整槽を設けて水質を均一化・定量送水することで、後段の処理プロセス全体を安定させることができます。
有機汚濁(BOD・COD)の除去には、活性汚泥法や担体流動法などの生物処理が広く用いられます。
ただし、殺菌剤や有機溶剤、難分解性成分が含まれる場合は微生物の分解機能が低下するリスクがあります。事前にBOD/CODcr比などを測定して生分解性を評価し、必要に応じて栄養剤の添加や希釈、耐性の高い微生物担体の活用などを組み合わせて安定処理を図ります。
膜分離活性汚泥法(MBR)は、生物処理と膜分離を融合させた技術です。膜によって汚泥(SS)を物理的に分離するため最終沈殿池が不要となり、設備の省スペース化と高い処理水質を実現できます。
処理水を工場内で再利用(中水化)する場合にも極めて有効であり、用途に応じた要求水質を満たせるか確認のうえ検討を進めることが大切です。
水処理設備の新設・更新・増強では、現在の排水データだけでなく、将来の生産計画や既存インフラの活用まで見据えた選定が重要です。
実際の排水サンプルを用いたベンチテスト(処理試験)や小型パイロットテストを実施し、生分解性や最適ばっ気時間、適正薬剤量などを事前に検証します。
机上の水質計算だけでなく、現場データに基づいて設計パラメーターを割り出すことで、操業後のトラブルを防ぎ失敗のない確実な設備選定が可能になります。
増産に伴い排水量が増える場合でも、必ずしも大規模な水槽の新設が必要とは限りません。既存のばっ気槽や沈殿池にMBRユニットの後付けや生物担体を追加設置することで、省スペースのまま処理能力だけを引き上げる改修手法も有効です。
コストや工期、維持管理負担を抑えるためにも、新設案だけでなく既存設備の有効活用案を含めて比較検討することがポイントとなります。

中外製薬工業の藤枝工場では、新設する合成原薬製造棟の排水について、水質特性の把握と既存の排水処理設備を含めた処理方式の検討が求められていました。
そこでドリコが排水分析を実施し、原水水質の確認と合わせて処理方針の検討指標となるBOD/CODcr比を測定しました。その結果、既存設備と同様の処理方式で対応可能であることが確認された一方、処理の安定性を保つには栄養剤の添加が必要不可欠と判明しています。この分析結果を踏まえ、担体流動ばっ気方式と膜分離活性汚泥方式(MBR)を組み合わせた処理システムが設計・施工されました。
本事例は、新設設備の処理方式を決定するにあたり、詳細な排水分析を通じて実際の排水特性と必要な処理条件を明確化した好取組と言えます。
※参照元:ドリコ公式HPhttps://drico.co.jp/case/198/

クボタが紹介する栄養製品・医薬品排水の処理設備では、生産拡大に伴う排水処理能力の増強が課題とされていました。既設設備では散水ろ床と活性汚泥法による処理を行っていましたが、処理能力の向上に向けて膜分離活性汚泥法(MBR)が導入・増設されました。
本設備では、既存の躯体や水槽を有効活用しながら処理能力の増強を果たし、放流水質の向上も同時に実現しています。新たな設備を導入する際に、既設インフラを活かしてコストやスペースを抑えた先進事例です。
※参照元:クボタ公式HPhttps://www.kubota.co.jp/product/membrane/casestudy/medical.html
医薬品工場の排水処理では、バッチ生産やCIP洗浄に伴う水質・水量のピーク負荷と、殺菌剤や有機溶剤などの混入リスクに配慮したシステム構築が不可欠です。事前の水質分析(BOD/CODcr比の評価)を通じて生分解性を評価し、特定施設届出や下水道法に基づく排水基準を遵守できる処理フロー(前処理・生物処理・MBRなど)を選定することが求められます。
また、増産時においては全面新設だけでなく、既存水槽へMBRユニットを追加設置するなど、コストや設置スペースを抑える改修案も含めて比較検討することがポイントとなります。
本メディアでは、水業界特有の課題別におすすめの水処理企業を紹介しています。ぜひパートナー選びの参考にしてください。
業界ごとに異なる排水処理ニーズに対応するには、専門性の高い水処理技術をもつ企業の選定が鍵となります。
それぞれの業界特有の課題を解決した事例を持つパートナーと連携し、法規制の遵守や運用コストの最適化を目指しましょう。
導入実績
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