めっき工場では、めっき工程だけでなく、脱脂や酸洗、水洗などの前後工程からも性状の異なる排水が発生します。金属類やシアン化合物、六価クロムなど、使用する薬剤に応じた厳重な排水管理が不可欠です。本記事では、めっき排水の特徴や法規制、主な処理方法から設備選定のポイント、具体的な導入事例まで解説します。
めっき工場では、工程ごとに排水に含まれる成分や濃度が大きく異なります。金属類や有害物質を含む排水を一括で一律処理するのではなく、発生源や含有成分に応じて排水系統を分離・管理することが基本となります。
めっき工場では、めっき槽通過後の水洗水をはじめ、脱脂、酸洗、活性化、化成処理などの前後工程から日常的に排水が発生します。水洗水には製品に付着して持ち出された薬剤や金属成分が混入するほか、めっき液や前処理液の更新時には高濃度の濃厚廃液が排出されます。希釈された水洗排水と高負荷な濃厚廃液を区別して管理することが、後段の処理設備にかかる負荷を抑えるうえで重要です。
使用するめっき液や前処理薬剤により、亜鉛、ニッケル、銅などの重金属類をはじめ、シアン化合物、六価クロム、ふっ素、ほう素などを含む排水が発生します。ただし、すべての工場で同一の有害物質が発生するわけではありません。自社の製造工程と使用薬剤から対象物質を正確に洗い出し、必要な水質項目を分析・把握することが、適した処理方式の選定につながります。
めっき液や脱脂剤などに含まれるキレート剤は、金属イオンと強く結合して錯体(キレート錯体)を形成する性質があります。金属が錯体化すると、通常のpH調整や凝集沈殿ではフロック(凝集塊)が十分に形成されず、重金属が処理水中に残留する原因となります。そのため水質分析では、重金属濃度だけでなくキレート剤の有無や種類も把握し、必要に応じて薬剤の変更や前処理(錯体破壊)の導入を検討することが求められます。
めっき工場の排水規制は、設置施設や放流先(公共用水域か公共下水道か)によって適用法規が異なります。自治体の条例で国の基準より厳格な「上乗せ基準」が設定されているケースも多いため、排水先の個別条件の確認が不可欠です。
水質汚濁防止法施行令では、めっき・表面処理に関連する特定施設として酸又はアルカリによる表面処理施設および電気めっき施設が定められています。該当する施設を設置・変更する工場では、事前の届出要件や排水基準の遵守が法律上義務付けられます。
特定施設を設置し、公共用水域へ排水する事業場(特定事業場)では、シアン化合物、六価クロム化合物、亜鉛、ふっ素などの有害物質および生活環境項目に対して許容限度が設定されています。使用薬剤の成分と実排水の分析結果を照らし合わせ、適用される基準項目を特定することが重要です。一般排水基準のほか、自治体が独自に設定する上乗せ基準への適合性も精査する必要があります。
※参照元:e-Gov法令検索/水質汚濁防止法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/346CO0000000188/
※参照元:環境省/一般排水基準https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html
亜鉛含有量の一般排水基準は2mg/Lに設定されていますが、電気めっき業に対しては暫定排水基準として4mg/Lが適用されており、適用期限は2029年(令和11年)12月10日まで延長されています。ただし、この暫定措置は電気めっき業の亜鉛項目のみを対象とするものであり、他の重金属や有害物質の基準が緩和されるわけではありません。自治体の上乗せ基準も含め、自社に適用される最新の基準値の確認が求められます。
※参照元:環境省/排水基準を定める省令等の一部を改正する省令の一部を改正する省令の公布についてhttps://www.env.go.jp/press/press_03960.html
公共下水道へ排水する場合は、水質汚濁防止法とは別に下水道法に基づく排除基準や自治体ごとの下水道条例が適用されます。重金属類やシアンなどの特定事業場規制項目、pH(水素イオン濃度)などについて基準が設けられているため、設備計画に着手する前に管轄の下水道管理者へ事前相談を行い、適用条件や届出手続きを確認することが推奨されます。
めっき排水の処理では、工程ごとに排水を確実に分別し、含有物質に応じた個別処理(酸化分解・還元など)を行ったうえで、中和・凝集沈殿やろ過などの固液分離へつなげるのが基本フローとなります。処理プロセスは、排水の成分構成と要求水質に合わせて適切に組み立てます。
シアン系、酸・アルカリ系、六価クロム系、ふっ素系、重金属系など、排水の性状や含有成分に応じて系統を完全に分離(分別)して集水することが鉄則です。性状の異なる排水を不用意に混合すると処理薬品の消費量が増大するだけでなく、特にシアン系排水と酸性排水が混触すると有毒なシアン化水素ガスが発生する危険な状態を招きます。安全確保と処理効率化のためにも、発生源での系統別管理が極めて重要です。
重金属を含む排水処理では、アルカリ剤を添加してpHを調整し、金属イオンを難溶性の水酸化物として析出させた後、高分子凝集剤などでフロックを形成して沈殿分離させる方法が一般的です。沈殿槽から流出する微細なフロックを捕集するため、必要に応じて後段に砂ろ過機などのろ過設備を配置します。また、沈殿した重金属スラッジ(汚泥)はフィルタープレス等の脱水機で固化・減容し、産業廃棄物として適正に処分します。
なお、亜鉛は水酸化物を形成する至適pH範囲(pH9.0〜9.5付近)が狭く、pHが高すぎても再溶解する両性金属です。実際の排水では共存するキレート剤や他金属の影響も受けるため、水質に応じた精密なpH自動制御と薬品管理が欠かせません。
※参照元:環境省/【PDF】電気めっき業における亜鉛の排水濃度低減のための対策事例集https://www.env.go.jp/content/000265045.pdf
シアン化合物や六価クロムは、通常の重金属中和・凝集沈殿だけでは除去できないため、事前の個別前処理が不可欠です。シアン化合物に対しては専用薬剤を用いた酸化分解処理(アルカリ塩素法など)、六価クロムに対しては還元剤を用いて無害な三価クロムへ変換した後に凝集沈殿で除去する方法が採られます。ふっ素にはカルシウム化合物による沈殿処理、ほう素には吸着処理などを適用し、排水性状に応じた専用工程を組み合わせます。
処理設備の選定では、単体の処理装置だけでなく、排水の発生源から最終放流・汚泥処分に至る全体フローを総合的に設計することが重要です。
ラインの稼働状況や水洗頻度、工程液の更新(バッチ排出)により、排水の水質・水量は大きく変動します。平均値のみで設計せず、工程別の最高濃度やピーク時の水量を正確に把握することが失敗を防ぐ鍵となります。金属濃度に加え、シアン、六価クロム、ふっ素、キレート剤の有無を確認し、実際の排水サンプルを用いたジャーテスト(ビーカー試験)を実施して設計条件を割り出すことが推奨されます。
分別集水した排水をどの前処理・主処理に流すかによって、設備全体の構成やイニシャルコストが変化します。重金属の凝集沈殿のみで放流基準を満たせるか、あるいはシアン分解やクロム還元、高度処理(イオン交換膜や膜ろ過など)が必要かを精査し、安定して基準値をクリアできる組み合わせを設計します。
凝集沈殿プロセスでは重金属を含有した水酸化物スラリー(汚泥)が発生するため、脱水機(フィルタープレス等)による減容化や、産業廃棄物としての適正処理・脱汚泥コストまで見据えた計画が必要です。既存設備の更新・増強を行う場合は、配管レイアウトや槽容量、接続条件の確認に加え、日常の薬品補充や点検作業がスムーズに行えるメンテナンス性の確保も重視すべきポイントとなります。
めっき工程廃水は、重金属をはじめホウ素、フッ素、アンモニア、酸化剤、還元剤などを含む処理の難しい液であり、従来は産業廃棄物として処分されていました。
この課題に対し、ササクラの「RHC濃縮装置」を導入。蒸発濃縮処理を行うことで、発生する凝縮水は通常の水処理が可能になり、工場内での再利用によって排水から無駄なく回収できるフローを構築しました。
本手法により、産業廃棄物処理費の削減と水資源の回収・再利用を同時に実現した事例です。
※参照元:ササクラhttps://www.sasakura.co.jp/technology/example/detail/2

電子部品用接点材料などの精密フープめっきを行う東新工業(いわき工場)では、めっきライン増設に伴う第三工場の新設時に、三進製作所の総合排水処理設備を導入しました。
各工程の水洗ラインから発生する排水を「シアン系」「酸・アルカリ系」「ふっ素系」の3系統に分別。シアン系および酸・アルカリ系にはMF膜モジュール(超精密ろ過装置)を組み込んだ分離・濃縮システムを採用し、後段のBOD・COD処理には膜分離活性汚泥装置(液中膜)を導入しました。さらにエッチング工程のふっ素排水は事前凝集沈殿処理を行ってから膜分離活性汚泥装置へ合流させることで、厳しい放流水質規制のクリアと省スペース化を両立させています。
※参照元:三進製作所https://www.sanshin-mfg.co.jp/case_studies/case06.html
めっき工場の排水処理では、シアンや六価クロム、重金属、ふっ素など、含有物質に応じた系統ごとの厳格な分別集水と個別処理(酸化分解・還元処理等)の徹底が不可欠です。水質汚濁防止法(特定施設届出や亜鉛の暫定排水基準)および下水道法の基準値をクリアするため、事前にジャーテスト等で適正なpH制御範囲やキレート剤の影響を評価することが求められます。
また、重金属スラリー(汚泥)の減容化や維持管理コストの抑制、既存設備との接続条件まで見据えて、総合的な水処理システムを比較検討することがポイントとなります。
本メディアでは、業界特有の課題別におすすめの水処理企業をご紹介しています。ぜひパートナー選びの参考にしてください。
業界ごとに異なる排水処理ニーズに対応するには、専門性の高い水処理技術をもつ企業の選定が鍵となります。
それぞれの業界特有の課題を解決した事例を持つパートナーと連携し、法規制の遵守や運用コストの最適化を目指しましょう。
導入実績
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